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和泉元秀師(狂言和泉流)

昔、ふとした成り行きで狂言師・和泉元彌さんの父・和泉元秀さんと雑談したことがある。
板橋にある稽古場の一角の応接間で、差し向かいで出前の寿司をつまみながら。

「狂言とは神に奉納するものなんです」

「よく、学者などが家伝の技術書のようなものを見せて欲しい、と言って来たりする。
しかし、奥の巻を開いてみたらつまらないことが書いてあった、というようなもので、
大事なことは代々口伝で伝わってきているのです」

なかなかの論客ぶりだった印象は記憶に残っているが、
若造の悲しさ、突っ込んだ質問は出来なかった(急なことで準備もしていなかったけど)。
それから確か半年もたたないうちに五十代の若さで急死されたはずである。

ところで、その時あの和泉節子さんとはお話し出来なかったのも、今思うと残念だなぁ。
私が稽古場にお邪魔している間、ずーっと仕事らしき電話で話し続けていたのである。
# by funatoku | 2004-11-10 21:06 | 一期一会 | Trackback | Comments(0)

原武史・保阪正康『対論 昭和天皇』文春新書

「大正天皇」(朝日新聞社)、「皇居前広場」(光文社新書)など話題作を発表し、
近現代天皇(制)研究に新たな風を送り込んでいる明治学院大学教授の原武史氏。
昭和史の“生き証人”たちに数多くの取材をし、「昭和史七つの謎」(講談社文庫)が
ベストセラーとなったのも記憶に新しいノンフィクション作家の保阪正康氏。
昨今の“昭和史ブーム”の火付け役ともいうべき二人が昭和史の主役を語る対談。

昭和天皇の「声」「身体」といった、今まで語られていなかった部分にも言及されている。
明治天皇と大正天皇への態度の違い、弟である高松宮、秩父宮との微妙な関係、
満州皇帝溥儀への複雑な態度などは、とても生々しくスリリングである。
昭和天皇の記憶の良さと、それを表現するボキャブラリーの貧困さという指摘も興味深い。
そうか、あれは一番相応しい言葉を探していたのか…。妙に納得してしまいました。

昭和天皇には勿論(生物学関係は除いて)著作は無いし、肉声も断片的にしか残らない。
この本も膨大な周辺資料から真実の姿を立ち上がらせてゆく過程の一里塚なのだろう。
# by funatoku | 2004-11-09 09:38 | 文庫・新書 | Trackback | Comments(0)

気になるコマーシャル(1)

視聴者にわざと違和感を与えるという手法のCM。わかっていても腹が立ちませんか。
渡辺満里奈が「♪尿、尿…」とか唄うCM。尿と尿素が違うことは承知してますがね。
化粧品会社はイメージにうるさいくせに、食事時にTVで「尿!」ってアリなのだろうか?

そして大竹しのぶが「私、メル友が多いので…」とか語っている携帯電話のCM。
私は何の根拠も無く確信しているのだが、実際の大竹にメル友は余りいないハズ。
用も無いのに大竹にメールする奴がいれば、男女を問わずそいつには下心がありそうだ。
というか、わざと一番「携帯メールと縁が無いとイメージされる女優」を選んだのだろう。

どちらも別のタレントではCMのコンセプト自体が成立しなくなるような“絶妙”な人選。
制作側の確信犯ぶりが透けて見えるところに、また腹が立つんでしょうね。
# by funatoku | 2004-11-08 02:19 | テレビ・ニュース | Trackback | Comments(1)

中野晴行『球団消滅』ちくま文庫

昭和二十年代、プロ野球界は選手引き抜き、新球団設立、リーグ分裂等混乱を極めた。
この時期を語ると必ず名前が挙がるのが、本書の主人公・田村駒治郎である。
セ・リーグ初の優勝チーム(昭和25年)松竹ロビンスのオーナーとして知られるが、
そもそも何故、大阪の繊維問屋の社長が映画会社「松竹」球団の“オーナー”なのか?
本書は球界の風雲児にしてドンキホーテとも言える男の半生を丹念に追っている。

彼は戦前から朝日軍のオーナーだったのだが、何しろ当時は球団を持っているのが、
新聞と鉄道ばかりという時代。船場の二代目は言わば浮いた存在に過ぎなかった。
では田村の球団経営が古かったのかと言うと、本書によればそうでもないのである。
大リーグに憧れていたせいもあって、フランチャイズ制を唱え、引き抜きによる
年俸の高騰を憂い、100年先を見据えたプロ野球経営を主張するなど正論も多い。
それにアメリカ流の野球協約を初めて日本に持ち込んだのは田村駒治郎なのである。
しかし、大阪に球場建設を試みたが、GHQをバックにした南海に先を越されたり、
結局大金払って選手を集めたりと矛盾も多くて、彼の真価を見えにくくしている。
またワンマン社長らしくと言うべきか、実にしばしば身内の造反に遭っている。
戦争中疎開させた選手たちが反乱を起こして、新球団(金星)を作ってしまったほど。

読むほどにセコさと理想主義が混在したこのオッサンの不思議な魅力にハマりましたね。
そして昨今明らかなようにプロ野球の抱える問題が現在も当時と変わっていないこと、
その上、これほど野球好きのオーナーを擁していないことには愕然とせざるを得ない。
なお、田村を中心にした本書の性格上、選手の記述があっさりしているのは残念。
# by funatoku | 2004-11-07 17:27 | 文庫・新書 | Trackback | Comments(0)