立川こはる「真田小僧」 3月に「道灌」を見て以来ですが、随分上達していて自然に笑えました。まあ、子供の出る噺なので女流落語家向きとは思いますが、やはり成長するもんですね。前座の巧拙はここに書かないようにしていますが、ちょっと例外ということで。
立川談春「味噌蔵」 「朝潮(高砂親方)、バカですねえ」「亀田家、シェイクスピアが書くと『リア王』になる」などと、マクラは時事ネタから。さらに出たばかりの「ミシュラン日本版」に触れて、「あれはタイヤ屋が作った本で、元々車で行ける店を紹介していた…」などと説明していましたが、翌日に行ったラーメン屋で偶々読んだ週刊誌で福田和也氏(談春師のファンでもあります)がほぼ同じことを書いていました。さては福田氏がネタ元だな。 落語家ミシュランを作ればどうなるか?「談志は70過ぎたら三ツ星から二ツ星になったとか」「今、三ツ星と言ったら志の輔兄さんは入りますね。あれ、俺が他人を誉めてるとおかしいかい?」「ファミレス部門には木久蔵、いっ平、正蔵…(笑)。俺と志らくは無星ですから」 「その代わり“客ミシュラン”もありますよ。京都と金沢は本当にやりにくい。“ふーん、談春さんね。東京で売れてるんだ”と上から見られている感じで」 「味噌蔵」はケチん坊の主人吝嗇屋吝兵衛(しわいやけちべえ)の留守に、店の者たちがドンチャン騒ぎをしているところに吝兵衛が帰ってきたからさあ大変!というドタバタ劇。談春師が吝兵衛を好演すると、むしろこちらに感情移入してしまいそうになるわけで、余り談春師向きではないかも知れませんね、この噺。 「何か近々悪いことが…」「里の人たちは気が触れてるんじゃ…」「何年ぶりかでおかずというものを…」なんていうトボけた台詞で爆笑。途中、通貨単位が円と両で混乱するという談春師には珍しいミスがあったりして(瑣末なようですが、江戸と明治では頭に浮かべる光景がまるで違います)本調子では無さそうでしたが、冬の雰囲気を出すのはお得意のところ。 立川談春「芝浜」 「接待されるようになりまして…」、今日の主催者(夢空間)にゴルフに連れて行ってもらった。「だから守屋派なんです」。しかし、自分で払わなきゃいけないと思って1万円渡した。「そうしたら5,500円お釣りがきました(笑)。何だそんなに安いコースだったのかと」 談春師の「芝浜」は二年前に聴いていて、素晴らしい出来でした。どうしても、二年前の印象と比べながら聴くことになるわけですが、大きく噺の骨格を換えた部分は無さそうです。敢えていえば、芝の浜辺で顔を洗ったり、煙草を吸う場面が長くなっているあたりでしょうか。このあたりは、談志流に近づけたのかも知れません。 ところが、後半になるにつれ、どうも主人公魚勝のキャラクター設定が前回と微妙に違うように感じられてきました。前回は「人間が変わったんだと思う」と言っていましたが、談春師は今回はっきりと「了見は変わらない」と言い切りました。魚勝の酒好きという了見は変わらないが、基本的には物事を考え込まない男なので、取り敢えず働き始めたというわけです。これは180度と言って良いほどの違いです。 「芝浜」の女房は落語における「良妻の鑑」とよく言われます。しかし、私はこの女房が「金を拾ったのは夢だ」と魚勝に言い聞かせて、拾った金をお上に届けるまでは分かるのですが、一年後にその金が返ってきたのにもかかわらず、その後二年間も夫を騙し続けたのは随分嫌な女だなと思いますし、リアリティを感じられません。今回の女房は拾った金の件を夫に告白する段でも、どこかふてぶてしさがあって開き直ったり、冗談でしょうが「あなたがいなくても店は大丈夫」などと口走ったりします。 私の疑問と談春師の疑問が同じかどうかは分かりませんが、「芝浜」を単なるお伽話では終わらせずに、リアリティを持たせるための葛藤が談春師にはあるのだと思います。ですから、二年前と今回では解釈が異なるわけですし、多分二年後に聴けばまた異なるのでしょう。当代の名手がこうして常に古典落語と格闘している姿は感動的でした。 駅への帰り道で、初老の男性客が連れに「人情噺が云々」と力説しているのが聞こえました。確かに「芝浜」を人情噺というファンタジーとして聴きたい人には、ちょっと不満が残ったのかも知れませんね。
by funatoku
| 2007-12-06 01:21
| 落語
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