柳亭こみち「一目上がり」
柳家小三治「あくび指南」 「ガソリンも120円になっちゃうし…」などと時事ネタから入るが、 「TBSを楽天が…、村上ファンド?新聞に書いてあることがわからねえんだ」 昔は78回転だったが、LPになって今やCDの時代。「LPを3000枚も持ってるのに」 テレビもデジタル化されるが、「放っておけば向こうから何か言ってきますよ」 近所に出来た「あくび指南所」であくびを習おうとする男と、それに付き合わされる男。 設定自体が荒唐無稽なのだが、小三治師が演じると何気ない台詞が妙に可笑しい。 「(下手なかっぽれに)人の命を脅かすのは」 「お連れさん?」「濡れ衣です」 「第一あくびの稽古に台詞があるとは…」 サゲは通常通り「お連れさんの方がご器用でいらっしゃる」 柳家三三「引越しの夢」 連れにこの名前は何と読むのかと訊かれ、マクラで自己紹介する からと答えたのだが、「横棒がいっぱい並んでる…」「さんざっ!と呼ぶよりミミちゃんと…」 などという、いつものマクラ無しで本題へ入る。円生百席に入っているようだが、私は初見。 手元の落語事典を読むと、登場人物などにいくつかバリエーションがあるようだが、三三版では、 本によっては海千山千という設定になっている女中そのものはほとんど描かれず、 夜這いをかけようとする番頭を主体に描いている。店を仕切っているのは主人ではなく女将。 この番頭、現代から見ればとんだセクハラ野郎なのだが、三三さんはコミカルな面を抽出して 演じているので、恐らく女性にも嫌らしさを感じさせないだろう。このバランスは絶妙と言って良い。 夜這いをしようとした挙句、鼠入らずを担ぐ羽目になってしまうというサゲの状況は、 当時の商家の造りが分かっていないと客の頭に絵が浮かばないので、損な噺だと思うが、 さすがに今一番ノっている三三さんだけに、説明を混ぜながらも話術だけで爆笑させた感じ。 柳家小三治「うどん屋」 「他人の商売というのは呑気そうに見える…」「屑屋は小さな声で 呼ばれる方が儲かる」などとマクラを振り、蕎麦屋とうどん屋の呼び声を演じてみせる。 屋台のうどん屋が酔っ払いに絡まれたり、「子供が寝てるので静かにしろ」と言われたり、 ツイテない晩で、ようやく商家から出てきた小声の客に、これは仲間を連れてくるかと期待 して小声で応対していたら、「うどん屋さんも風邪ひいたのかい」 この噺を十八番にしていた、柳家小さんバージョンを聴いた記憶は無いのに、小三治師の うどん屋を聴いていると、小さん師の語り口が浮かんできてしまった。 師匠だから影響を受けているのは確かだろうが、この噺自体が小さん師のキャラクターに 嵌まり過ぎていて、新しい「うどん屋」を作り上げるのはなかなか大変だろうなと思う。 この日の2席は今年66歳の小三治師らしさが出た高座だったのではないだろうか。 10年後には「あくび指南」は様式美のようになってしまうかも知れないし、10年前に「うどん屋」の この枯れた面白さが果して出ていただろうか。そういう意味で今の小三治師が見られたという 満足度が高かったのである。
by funatoku
| 2005-11-12 14:15
| 落語
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