昭和二十年代、プロ野球界は選手引き抜き、新球団設立、リーグ分裂等混乱を極めた。
この時期を語ると必ず名前が挙がるのが、本書の主人公・田村駒治郎である。 セ・リーグ初の優勝チーム(昭和25年)松竹ロビンスのオーナーとして知られるが、 そもそも何故、大阪の繊維問屋の社長が映画会社「松竹」球団の“オーナー”なのか? 本書は球界の風雲児にしてドンキホーテとも言える男の半生を丹念に追っている。 彼は戦前から朝日軍のオーナーだったのだが、何しろ当時は球団を持っているのが、 新聞と鉄道ばかりという時代。船場の二代目は言わば浮いた存在に過ぎなかった。 では田村の球団経営が古かったのかと言うと、本書によればそうでもないのである。 大リーグに憧れていたせいもあって、フランチャイズ制を唱え、引き抜きによる 年俸の高騰を憂い、100年先を見据えたプロ野球経営を主張するなど正論も多い。 それにアメリカ流の野球協約を初めて日本に持ち込んだのは田村駒治郎なのである。 しかし、大阪に球場建設を試みたが、GHQをバックにした南海に先を越されたり、 結局大金払って選手を集めたりと矛盾も多くて、彼の真価を見えにくくしている。 またワンマン社長らしくと言うべきか、実にしばしば身内の造反に遭っている。 戦争中疎開させた選手たちが反乱を起こして、新球団(金星)を作ってしまったほど。 読むほどにセコさと理想主義が混在したこのオッサンの不思議な魅力にハマりましたね。 そして昨今明らかなようにプロ野球の抱える問題が現在も当時と変わっていないこと、 その上、これほど野球好きのオーナーを擁していないことには愕然とせざるを得ない。 なお、田村を中心にした本書の性格上、選手の記述があっさりしているのは残念。
by funatoku
| 2004-11-07 17:27
| 文庫・新書
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