小津安二郎映画における“実年齢”と“役年齢”

mixi日記からの転載です。

 先日の日記で小津安二郎監督「秋刀魚の味」の同窓会場面について触れました。(URL省略)
 あの場面、教師役の東野英治郎(55歳)の方が教え子役の笠智衆(58歳)や北竜二(57歳)より実年齢は年下なのですね。教え子役の一人、菅原通済に至ってはこの時68歳だから13歳も年上。もちろん夜間中学じゃありません(笑)。東野が年寄り臭く見えるのは“演技力”の賜物なのですね。俳優は様々な年齢の役柄を演じますから、実年齢というのは余り関係無いとも言えますが、舞台とは違って映画ではそんなに無茶な設定は出来ないでしょう。と言うわけで、主な戦後小津映画の役者たちの実年齢と役の設定年齢を調べてみました。
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晩春(昭和24年)
 笠智衆(45歳)が娘の原節子(29歳)を嫁に出す話。笠は56歳の東大教授という設定なので既にかなりの老け役ですね。原は27歳なので実年齢よりやや若い。笠の妹役の杉村春子(40歳)も兄につられて49歳と結構年上の役柄ですが、余り年齢は関係無い芸風でしたね。原を嫁がせた夜、笠が台所で独り寂しくリンゴの皮を剥くラストの場面は有名ですが、あれが45歳とはねえ…。ちなみに今年平成19年に45歳になる芸能人は柳沢慎吾、豊川悦司、石原良純、林家正蔵(こぶ平)など。

麦秋(昭和26年)
 2年経ったら笠智衆(47歳)原節子(31歳)が兄妹に(笑)。兄妹なので笠38歳、原28歳という設定ですが、笠は一気に20歳近く若返ってしまうという荒業。そう見れば見えないことはないか…、でもやっぱり笠さんには老け役の方が似合いますね。杉村春子(42歳)は原の結婚相手の母親役で54歳とかなり上の設定。

東京物語(昭和28年)
 笠智衆(49歳)東山千栄子(63歳)70歳67歳の夫婦役。実年齢より21歳も上の役を演じる笠さんには苦労も多かったようで、背中にタオルを入れて丸まって見えるように工夫したりしたそうです。その子供たちの山村聡(43歳)杉村春子(44歳)大坂志郎(33歳)香川京子(22歳)はそれぞれ47歳44歳27歳23歳という設定。戦死した次男の未亡人原節子(33歳)28歳で、みんな実年齢に近い。
 しかし、実は笠を上回る老け役がいて、笠の旧友である東野英治郎(46歳)71歳の設定なんですね。その差25歳。ちなみに水戸黄門こと徳川光圀は73歳で没しています。

東京暮色(昭和32年)
 笠智衆(53歳)57歳の銀行員役だから実年齢に近くなってきます。笠の娘の原節子(37歳)有馬稲子(23歳)は、32歳21歳の設定。笠と別れた妻山田五十鈴(40歳)52歳と老け役で、長女の原と実年齢は3歳しか違わないのです。母を知らない設定の有馬に「(山田は)若く見えたけど」という台詞を言わせているのは、小津監督が山田に気を使ったのでしょうか。
 「東京物語」では親子だった笠と山村聡(47歳)がこちらでは同級生を演じています。

彼岸花(昭和33年)
 佐分利信(49歳)笠智衆(54歳)中村伸郎(50歳)北竜二(53歳)が同級生役で55歳。佐分利の妻田中絹代(49歳)48歳、佐分利の娘有馬稲子(24歳)23歳をはじめ主要キャストが実年齢に近いのは、小津監督初のカラー作品だったことと関係あるのでしょうか。

お早よう(昭和34年)
 と思いきや、笠智衆(55歳)46歳とまた若返る(笑)。この映画では中学1年と小学1年の息子が重要な役どころなので、父親である笠を極力若く設定しないと無理が生じるんですね。でもやはり無理があるかも…。息子というより孫みたいに見えるもん。
 笠の妻三宅邦子(43歳)37歳はともかく、近所の杉村春子(50歳)38歳というのはさほど必然性が無さそうな設定です。東野英治郎(52歳)55歳で定年退職した男を演じていますが、この程度では東野さんにとっては老け役とは呼べませんね。

秋日和(昭和35年)
 長らく年下の役を演じてきた原節子(40歳)が、ついに年上の45歳の未亡人という設定になり、今度は24歳の娘司葉子(26歳)を嫁がせる立場に回ります。笠智衆(56歳)は亡き夫の兄で59歳。亡き夫の同級生は佐分利信(51歳)中村伸郎(52歳)北竜二(55歳)というお馴染みの面々で53~4歳。中村さんの回想によると、実年齢が一番下の佐分利さんの頭髪が真っ白だったので、他の人に合わせて黒く染めたそうです。小津監督が生きていれば原節子の老け役がまだ続いたのでしょうかねえ。

秋刀魚の味(昭和37年)
 若い頃の笠智衆(58歳)を老け役として抜擢したのは小津監督ですが、遺作である本作品では実年齢とほぼ同じ57歳を演じています。長男佐田啓二(36歳)32歳、長女岩下志麻(21歳)24歳、次男三上真一郎(22歳)21歳で、姉の方が弟より年下ですが、この頃から姐さんの貫禄があったのか…?
 笠の中学時代の教師が東野英治郎(55歳)で、72歳の老け役を見事に演じます。東野の娘の杉村春子(53歳)48歳の設定ですが、この親子も2歳しか離れていませんね。

 小津安二郎監督は翌昭和38年12月、60歳の誕生日に癌で亡くなるわけですが、もし斃れなければ笠智衆らの還暦後の生活を描いたのでしょうか。ファンとしてはぜひ見たかったですね。
 なお、ここに挙げた実年齢は映画の公開年の誕生日以降の満年齢で、撮影時の年齢ではありません。役の設定年齢は『小津安二郎を読む』(フィルムアート社刊)を参照しました。
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by funatoku | 2007-08-11 08:01 | 演劇・映画・展覧会 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 棚橋 幹夫 at 2010-01-31 17:31 x
今 現在 原節子さんは、お元気でしょうか?心配です。お元気でいますように、
Commented by funatoku at 2010-02-21 19:05
原節子さんは現在89歳なのですね。今後インタビューなどに現れる可能性も無いでしょうし、次にマスコミに出るのは訃報ということになりそうです。


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