第九回 古今亭寿輔ひとり会(9/12 上野広小路亭)

寄席で初めて古今亭寿輔師匠を見た時の衝撃は忘れられない。「こんな落語家がいるのか」という
驚きは、十代で初めて川柳川柳師(当時・三遊亭さん生)を見た時に匹敵するかも知れない。
口髭を生やした怪しい風貌のおじさんが、蛍光色の派手な着物で現われる。それを見て笑った
客をいじり始める。「まだ、何も喋っていないのに」「着物が陽気な分、性格は陰気」「人呼んで
落語界の“サリン”」「三列めの奥さんは顔で笑っているけど、心の中じゃ私に反感を抱いている」
「私の場合やればやるほど、芸がダメになる」「この程度の客じゃあ…」「アハハじゃなくて」
笑わせながらも、客席との間に微妙な緊張感を作り出しておいて、本題に入ると実はこれが
本格派の芸風で、一気に客をつかんでいく…。このギアチェンジの浮揚感が癖になるのだ。

もっとも、そこまで会心の高座にあたることはなかなか無かったが、何年か前に聴いた
横浜にぎわい座のトリが素晴しかった。確か「地獄めぐり」ではなかったかと記憶している。
近年私は寄席定席になかなか行けなくなったが、昨年8月上席にはトリの寿輔師目当てで
浅草演芸ホールに出かけていった。ただし、その日は途中で咳き込んでしまうアクシデントが
あったせいか、枕の延長のような漫談(「男はつらいよ」という題があるらしいが)だけで終わった。
私は今回初めて来たのだが、独演会は年に一度、ご贔屓筋が主催しているようだ。
客同士に顔見知りが多く、狭いホールは満席に近い入り。落語ブームの影響かは判らない。

神田きらり「寛永宮本武蔵伝 狼退治」

古今亭錦之輔(題不明) ワルに仲間入りしようとする男と、それを面接する男のコント
風の新作。そのグループが、悪餓鬼に対抗するための保育士たちだったというオチ。

古今亭寿輔(題不明) メクリを返すと名前が逆さまになっているのに、前座のきらりが
それに気づかないというアクシデントがあって師匠登場前に客席が沸く。「前座を4年やりましたが、
高座返しでも受けようとしたものです。柳家小三治さんは高座返しだけでも面白かった」などと
思い出話から入る。枕の客いじり、「○○さんが、今入ってきた」などとやってるところを見ると、
常連さん比率がかなり高そうだ。そうすると、残念ながらあの客席との微妙な距離感が生じない。
新婚の会社の同僚を酒に誘ったら、すっかりあてられてしまい、おでん屋で一人酒。家に帰ると
今朝喧嘩した女房からの謝りの手紙が牛乳瓶受けに入っていた…、といった筋の新作落語。
寄席では演題が発表されないので不便ですな。何となく桂米丸師のサラリーマンものを髣髴させた。

D51(コント) 二人組でリフォーム屋と客のばあさんのコント。ちょっと長過ぎた。

古今亭寿輔「薮入り」 プログラムにスポニチの寄席評が転載されていて、花井伸夫氏が
新宿末広で見た寿輔師の「薮入り」を褒めている。記事を読んだ常連客のリクエストだったようだ。
「普段はやらない噺をたまたまやったら、新聞記者が聞いていたんですね」
大師匠の古今亭今輔(直接の師匠は三遊亭円右。「古今亭寿輔」は円右師の前名でもある)は、
新作の“おばあさん落語”で知られたが、若い頃は三遊亭円朝作品ばかり演っていたそうで、
その今輔師匠に教わった噺と説明してから本題へ入る。

夜中に父親が金坊の帰りを待ちかねてる場面から始まる。「“アク”が父親を通して発散される
分、母と久々の帰省となる息子が淡彩に描かれており、一層の起伏を生み出していた」という
花井氏の評の通り、父親主体の描き方をしている。クスグリ自体はオーソドックスなものばかり
だったようだが、寿輔師の怪しい風貌と美声で演じると独特の味わいが出てくる。
正直なところ私は花井氏ほど父親にも“アク”を感じなかったのだが、昨年還暦を迎えた寿輔師は、
今後アクが抜ける方向に行くのか、それともアクは濃くなってゆくのか、楽しみになってきた。
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寿輔師がおでんを食べる仕種が上手いので、私もおでんを食べたくなり、帰りに新宿の有名店に
思わず立ち寄ったのだが…。うーむ、師匠が“食べていた”おでんの方が、美味しそうだったな…。
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by funatoku | 2005-09-15 02:23 | 落語 | Trackback | Comments(2)
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Commented by blue_note1982 at 2005-09-23 20:37 x
ご無沙汰しております。

落語の話題に関してではないのですが、
奇遇な符合があったのでご報告を。。

計画は順調に進んでおります、喜ぶべきことに。
出版企画の主宰である作家さんが、
『カフカ短篇集』所収の「万里の長城」を取り上げて、
あの工区分割方式で原稿入力の分担を分けていました。
文学好きには堪らんなぁ、といった感を抱きましたよ。。
Commented by funatoku at 2005-09-24 18:46
ご活躍のようで何よりです。
さすが編集作業にも文学の香りが漂いますねえ。完成が楽しみです。

今月は落語会2回で終わり、来月は1回の予定なので、中毒症状が…(笑)。


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