寄席に行かない週末は、落語本でも読もう

三遊亭円丈『御乱心』(1986年、主婦の友社)

1978年に前会長の三遊亭円生が、真打の濫造を不服として落語協会を脱退するという
事件があったが、その真相を当時真打になったばかりで、師・円生と行動をともにした著者が
赤裸々に描いていて刊行時かなり話題になった本。この事件の詳細については割愛するが、
古今亭志ん朝、立川談志、月の家円鏡(現・橘家円蔵)、林家三平といった当時の人気者が
円生に同調する動きを見せて大騒動になったものの、結局脱退したのは円生一門だけであり、
翌年の円生急死後、一番弟子の三遊亭円楽の一門を除いて落語協会に復帰している。

一読して感じるのは著者の「円楽憎し」という感情の強さである。脱退騒動の時に師匠に
「落語協会に残りたい」と申し出たら、円生と夫人に「恩知らず」と責め続けられるなど、
トラウマになりそうな経験もしたのに、著者の怨念はあくまでも円楽に向かうのだ。
落語協会に残りたい理由も、要は兄弟子・円楽と行動を共にしたくなかったということらしい。
全体の記述自体は読みやすく、ということはそれなりに冷静に進むのだが、こと円楽への
怨念だけは滲み出してしまうというのが面白い、且つ少し恐ろしくもある。

しかし、何故そこまで円楽を嫌いなのか。この本を読んでも分かるようで、分からないのだ。
円生一門が独立した途端に円楽は円生と距離を置き始め、円楽は自分の芸能事務所を一門に
協力させることを拒んだりしたというのは、妙な策士的な部分であり、著者の論客的な部分と
反発しあったのか、とも思われるが、策士の割にはその後の円楽の道筋には損が多い。
それにしても、独立後の円生の芸が改めて輝き始めたというのは、芸人の凄みを感じるなぁ。
「自分の置かれた苦境をバネに円生の芸は燃え盛った。(略)それは歌舞伎座での独演会で
最高潮に達した。七十八歳にしてこの芸!俺は信じられなかった。全く衰えを知らないのだ」

あと全く個人的発見。通夜があった円生の自宅が中野の「美野マンション403号室」とあるのだが、
父の友人が長く同名のマンションに住んでいたのだ。この方には私も昔色々お世話になったが、
円生宅の話題が出た記憶はない。改めて確認しようにも、今月亡くなってしまったのである。

鈴々舎馬風『会長への道』(1996年、小学館)

こちらは現・落語協会副会長の自伝。「会長への道」は落語協会の上の師匠方が次々に死んで、
著者が会長になるまでを描く得意ネタ。始めた当時は上にたくさん人がいて、フルバージョンでは
一時間近かったらしい、今や上には三遊亭円歌会長しかいないが、どう演っているんだろう。
ただ、もし本当に会長になってしまったら、文字通り“洒落にならない”ね。

著者は古典派ではなく、キックボクシングのリング・アナウンサーを務めたり、一見すると
アウトサイダー的なのだが、実は徹底的に色川武大流に言う“インサイドな気質”の人なのだ。
私には最も欠けている部分なので、読んでいてそこが興味深かった。

金田一だん平『落語家見習い残酷物語』(1990年、晩聲社)

お次は対極的な“アウトサイダー”。著者は三遊亭円窓に入門するがそこを飛び出し、後に八代目・
林家正蔵に再入門するも破門され、落語家を諦める。本書にはその円窓への怨嗟に満ちている。
ただ、挨拶が小声だったのを「あなた、損しちゃう」などと注意されたのを、「この師匠は物事を
損得でしか考えない」となどと断じてしまったり、もう最初から通じ合う部分が無い。
というか、そりゃ一応弟子の態度としては如何なものかと…。

何とも不思議なのは、著者は立川談志に傾倒していたにもかかわらず、何故わざわざ正反対の
師匠のところに入門してしまったのか、ということである。入門時には上智大学在学中で、
落語界の様子に全く無知だったという訳でも無さそうだ。
後年、立川談志は落語協会から独立するので、前歴に関係なく入門出来たかも知れないのに
それを試みた形跡はない。既に三十近かったかも知れないが、同時期にやはり三十前で入門して
大成した立川志の輔という成功例もあるのだから、やってやれないことではなかったはず。

落語界に少しでもコネをつけようとして、選りによって一番頼りにならなさそうな三遊亭さん生
(現・川柳川柳)と付き合い始めたりと、著者の行動はチグハグ過ぎる。で、結局このさん生に
円窓門下だったことを隠したまま林家正蔵に入門させられ、それが発覚して破門になっている。
著者はあとからさん生を怨んでいるけど、元々危険ににじり寄るタイプの人なのかも知れない。
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by funatoku | 2005-07-31 23:38 | 落語 | Trackback(2) | Comments(0)
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