「カイロの紫のバラ」「ラジオ・デイズ」など、80年代のウディ・アレン映画が好きだったのだが、
90年代以降は単館上映が多くなり、目にする機会がめっきり減ってしまった。 何故なのだろうか。彼の映画の登場人物はニューヨークの上流階級、セレブリティが多いので、 バブル期以降不況が長引く日本では、いささか共感を呼びにくい面があるのは確かだし、 何となくインテリ向けのスノッブな映画という位置づけになってしまったようにも見える。 だが、日本初公開となるこの2002年作品を見たら、「なぁ~んだ、ドタバタ喜劇じゃん」。 “コメディアン”ウディ・アレンは健在だったとホッとしたのである。 かつてアカデミー賞に2度輝いた映画監督・ヴァル(ウディ・アレン)は、今ではすっかり 落ち目になっていた。そんな彼のところに、久々にハリウッドから依頼が来たが、プロデューサーは 元の妻・エリーであり、彼女をヴァルから奪った現在の婚約者・ハルが映画会社の重役だった。 依頼を受諾したヴァルだったが、久々の大仕事で緊張し過ぎたせいか、クランクイン直前に突然、 心因性で目が見えなくなってしまう。しかしヴァルのマネージャーのアルは、せっかくのチャンスを 失わないためにも、黙って仕事を続けるようヴァルを説得する。つまり“目が見えない監督に映画を 作らせた”のである。ところが、目の見えないヴァルを手助けするためにつけた中国人通訳が 解雇されてしまったために、困ったアルはプロデューサーのエリーにヴァルの失明を打ち明ける。 後戻り出来ないエリーは、ヴァルの手足となって何とか映画を完成させるが、評判は散々だった…。 “目が見えない映画監督”というシチュエーションだけで、コントとして色々展開しそうでしょ。 チャップリンだったらどう演じるか、志村けんならどうか…、などと想像しても楽しいが、 こういう“困惑する男”を演じさせたらアレンは日本一だ。あ、日本じゃないか。 それに、喋り。元の妻エリーと再会する場面、「Business is business」と言って仕事の話を 始めようとした直後に、一転して「君は薄情な尻軽女だ!」などとぶち始める絶妙な間ときたら…。 故景山民夫氏によれば、アレンのトークにはパロディが多いので、原典を知らない日本人には真髄が 分からないとのことだったが、これはもう落語名人のような話芸であり、字幕を見ながら笑い転げた。 やけに髪型がキマっているハルのことを、「散髪代だけで家族5人養える」なんていうギャグも、 こうして書いてしまうと面白さが伝わりにくいが、もう可笑しくてしょうがない。 ただ、後半はちょっと駆け足というか、ストーリーが雑な印象を受ける。視力が戻ったヴァルが エリーと復縁してしまうのは、ちと都合が良過ぎるものの、まあ男のおとぎ話ということだろうが、 ヴァルの息子との関係修復のエピソードが飛び出すのは唐突で、この辺りはアレン映画に 時折見られるユダヤ的要素かも知れない。ユダヤ人の父子関係は、ちょっと独特らしいしね。 アメリカで酷評された映画が、フランスで受けたというラストは、フランスをナメてるのかなぁ、 ちょっと酷いなと思ったら、何と60年代の「フィルム・ノワール」という実際にあった映画史の パロディになっているらしい。そういったエピソードも含め、プログラムの町山智浩氏の解説が とても勉強になる。その解説によると“盲目の映画監督”というのも実在したのだという。
by funatoku
| 2005-06-09 23:07
| 演劇・映画・展覧会
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